DeepSeekは危険?会社で使う前に確かめたいリスクと、使い方ごとのデータの行き先
中国のAI企業DeepSeekの生成AIを業務で使ってよいか。データの保存先と適用される法律、実際に起きた情報の露出、国内外の当局の対応、安全対策の検証結果を一次資料で整理し、公式アプリ・API・クラウド経由・自社環境という使い方ごとにデータの行き先と注意点を比べます。
DeepSeekとは
DeepSeekは、中国の杭州DeepSeek人工智能(Hangzhou DeepSeek Artificial Intelligence)などが提供する生成AIです12。推論モデル「DeepSeek-R1」などが広く使われるようになり、業務で使ってよいかがよく問われています。
DeepSeekは、使い方によって「データがどこに行くか」が大きく変わります。
- 公式アプリ・Web版・公式API: DeepSeek社のサービスとして提供され、DeepSeek社のサーバーで処理される
- モデルそのもの: DeepSeek-R1 のモデルの重みは MIT ライセンスで公開されており、商用利用もできる。自社の環境で動かしたり、クラウド事業者が提供する形で使ったりできる9
この記事では、まず公式のサービスについて心配されている点を一次資料で確かめ、そのうえで使い方ごとの違いを整理します。
心配されている点1:データの保存先と、適用される法律
個人情報保護委員会は2025年2月、DeepSeekのプライバシーポリシーの内容として、サービスの利用に伴ってDeepSeek社が取得した個人情報を含むデータは中華人民共和国に所在するサーバに保存されること、そのデータには中国の法令が適用されることを情報提供しました。例として、中国の個人情報保護法、サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、国家情報法を挙げています1。
DeepSeekの日本語のプライバシーポリシー(2026年2月10日更新)でも、次のことが確認できます2。
- 収集した情報は、中華人民共和国のサーバーに保存される
- 入力(プロンプト、アップロードしたファイル、チャットの履歴)は、モデルの学習や改善に使われることがある。学習への利用は拒否できるが、方法はメールでの申請で、アプリの設定で切り替える仕組みとしては書かれていない
- 端末やネットワークの情報(端末の機種、OS、IPアドレス、端末の識別子など)も自動で集められる
- グループ会社が、研究開発(基盤モデルの学習を含む)などのために情報を扱う。必要と判断した場合は、当局などに開示することがある
米国の主要な生成AIサービス(ChatGPT・Gemini・Microsoft Copilot・Claude)の法人向けプランは、入力を既定で学習に使わないとしています(各社のデータの扱いの比較)。DeepSeekの公式サービスは、こうした法人向けプランとは前提が違います。
心配されている点2:実際に起きた情報の露出
2025年1月、米国のセキュリティ企業Wizは、DeepSeekのデータベースが認証なしでインターネットから見える状態になっていたと公表しました。ログには、チャットの履歴、APIの秘密情報、システムの内部の情報などが含まれていました。Wizの通知を受けて、DeepSeekは速やかに公開状態を解消したとされています5。
利用者に落ち度がなくても、提供者側の設定ミスで情報が見える状態になりえます。新しいサービスほど、運用の体制や、事故が起きたときの公表の姿勢を確かめる必要があります。
心配されている点3:国内外の当局の対応
日本
- 個人情報保護委員会(2025年2月3日): 上で紹介した、データの保存先と適用される法令についての情報提供1
- デジタル庁(2025年2月6日): 政府機関に向けた注意喚起。規約に同意するだけで使える「約款型」のサービスでは原則として機密性の高い情報を扱えないこと、国外にサーバーがある場合は現地の法令が適用され、検閲や接収を受ける可能性も考慮すべきリスクとして挙げられていることを示し、DeepSeekなどの生成AIを業務で使うときは、内閣サイバーセキュリティセンターとデジタル庁に助言を求めたうえで判断するよう求めました3
- 東京都(2025年2月10日): 中小企業向けのサイトで、国内にサービス提供の体制がある他のサービスとは異なり注意が要るとして、上の2つの資料を紹介しました4
デジタル庁の注意喚起は政府機関向けで、民間企業にそのまま適用されるものではありません。ただ、何を確かめて判断すべきかの参考になります。
海外
イタリアの個人データ保護機関(Garante)は2025年1月30日、DeepSeekを提供する中国の2社に対し、イタリアの利用者のデータの処理を即時に制限するよう命じ、調査を始めました。2社は「イタリアでは事業をしておらず、欧州の法律は適用されない」と回答しましたが、Garanteはこの回答を不十分と判断しています6。
心配されている点4:安全対策の弱さ
Ciscoは2025年1月、Robust Intelligence・ペンシルベニア大学と共同で、有害な行為を求める50件のプロンプト(HarmBenchという評価用のデータから抽出)を使い、自動化した手法でAIの安全対策を突破できるかを調べました。結果は、DeepSeek-R1が50件すべてを拒否できなかった(攻撃成功率100%)というものでした。同じ方法で調べたほかのモデルの攻撃成功率は26〜96%でした7。
これは、2025年1月時点のモデルを50件のプロンプトで調べた結果で、すべての使い方やその後の版にそのまま当てはまるとは限りません。ただし、DeepSeekのモデルを自社のサービスや業務システムに組み込む場合は、不適切な指示を断る力をモデル任せにせず、入出力を検査する仕組み(ガードレール)を自社で用意する必要がある、ということは言えます。プロンプトインジェクションの対策
使い方ごとのデータの行き先
| 使い方 | 入力の行き先 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 公式アプリ・Web版 | DeepSeek社のサーバー(中国)12 | 中国の法令が適用される。入力は学習に使われうる(拒否はメールで申請)。社員が個人で使うと会社の管理が及ばない |
| 公式API | DeepSeek社のサーバー | 公式サービスと同じく、DeepSeek社の規約とデータの扱いに従う |
| クラウド事業者経由(例: Amazon Bedrock) | クラウド事業者の環境。AWSは、利用者の入力とモデルの出力をモデルの提供者には共有しないとしている8 | 契約しているクラウド事業者の条件とリージョンを確認する。AWSもガードレールの併用と事前の評価を強く勧めている8 |
| 自社の環境で動かす | 自社の環境の中 | 動かす環境の管理(アクセス権・ログ)、モデルの入手元の確認、安全性の評価は自社の責任になる |
「DeepSeekは危険か」という問いには、どの入口で使い、何を入れるかによって答えが変わります。公式アプリ・Web版に社内の情報を入力する使い方と、自社が契約したクラウド事業者の環境でモデルを動かす使い方とでは、データの行き先がまったく違います。
会社としての判断のしかた
1. 公式アプリ・Web版の業務利用を認めるかを決める
ほかの生成AIツールと同じ審査項目(運営元、データの保存先と適用される法律、学習への利用、保存期間、管理機能)で判断します。認める場合も、個人情報や社外秘の情報は入力しないルールにするのが一般的な線引きです。判断の結果は社内ガイドラインの「使ってよいツール」の一覧に反映します。生成AIの社内ガイドラインの作り方
2. 社員が個人で使っていないかを確かめる
会社が認めていなくても、社員が個人のスマートフォンやアカウントで使っていることがあります。利用状況の把握と、使ってよい代わりのツールの用意をセットで進めます。シャドーAIの対策
3. モデルを組み込むなら、入口と安全対策を設計する
自社のサービスや業務の仕組みにDeepSeekのモデルを使う場合は、公式APIではなく、自社の環境や契約しているクラウド事業者の環境で動かす形を検討します。そのうえで、入出力の検査、AIに与える権限の最小化、事前の安全性の評価を行います。
チェックリスト
- 社内でDeepSeekの公式アプリ・Web版が使われているかを把握しているか
- 公式アプリ・Web版の業務利用を認めるかどうかを、社内ガイドラインで明確にしているか
- 認める場合、入力してはいけない情報(個人情報、取引先から預かった情報、社外秘の情報)を決めているか
- モデルを組み込む場合、データの行き先(公式API/クラウド事業者/自社環境)を設計の段階で決めているか
- 組み込む場合、ガードレールなど、不適切な入出力を止める仕組みを自社で用意しているか
実際に起きた事例
事例集を見る-
DeepSeekのデータベースが認証なしで外部から見える状態、チャット履歴やAPIの秘密情報を含むログが閲覧可能だった(Wiz報告)
米Wiz Researchは、中国のAI企業DeepSeekのClickHouseデータベースがインターネットから認証なしでアクセスできる状態だったと公表した。ログにはチャット履歴、APIの秘密情報、バックエンドの詳細、運用上のメタデータなどが含まれていた。Wizの通知を受け、DeepSeekは速やかに公開状態を解消した。
この記事の根拠にした資料
- 個人情報保護委員会事務局「DeepSeekに関する情報提供」
- DeepSeek「DeepSeek プライバシーポリシー(2026年2月10日更新)」
- デジタル社会推進会議幹事会事務局(デジタル庁)「DeepSeek等の生成AIの業務利用に関する注意喚起(事務連絡)」
- 東京都産業労働局「DeepSeek利用に関する情報提供」
- Wiz Research「Wiz Research Uncovers Exposed DeepSeek Database Leaking Sensitive Information, Including Chat History」
- イタリア個人データ保護機関(Garante per la protezione dei dati personali)「Intelligenza artificiale: il Garante privacy blocca DeepSeek」
- Cisco(Robust Intelligence・ペンシルベニア大学との共同研究)「Evaluating Security Risk in DeepSeek and Other Frontier Reasoning Models」
- Amazon Web Services「DeepSeek-R1 now available as a fully managed serverless model in Amazon Bedrock」
- DeepSeek「DeepSeek-R1(GitHub リポジトリ)」