シャドーAIとは?起きる理由・リスク・禁止に頼らない対策
会社が把握していない生成AIツールを社員が業務で使う「シャドーAI」。なぜ起きるのか、何が危ないのか、国内の調査の数字、禁止だけに頼らずに管理する方法を、担当者向けに解説します。
シャドーAIとは
シャドーAIは、会社が把握していない、または利用を許可していない生成AIを、社員が業務で使うことです。会社が管理していないIT機器やクラウドサービスを使う「シャドーIT」の、生成AI版にあたります。
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向けの3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選ばれました1。その解説書は、リスクの1番目に、職場に無断でAIを業務に使って情報漏えいにつながる「シャドーAI」を挙げています。社員が個人のアカウントで業務に使っていても、職場がそれを把握できないことも問題としています2。
典型的なのは次のような使い方です。
- 個人で登録した無料の生成AIサービスに、会議のメモや顧客とのメールを貼り付けて要約させる
- 業務のパソコンに、生成AIを使ったブラウザ拡張機能を自分で入れる
- オンライン会議に、AIの議事録サービスを自分の判断で参加させる
- 会社が許可したAIとは別に、もっと便利そうなAIツールを試す
本人に悪気はなく、仕事を早く終わらせたいという動機がほとんどです。だからこそ、禁止を伝えるだけでは減りにくいのが特徴です。
どれくらい起きているか
国内でもいくつかの調査があります。ただし「会社の許可なく」「公式でないツールを」「ポリシー違反と分かっていて」など定義と対象が調査ごとに違うため、数字は大きくばらつきます。比べるときは条件を確かめてください。
| 調査(発表) | 対象・人数 | 主な結果 |
|---|---|---|
| 角川アスキー総合研究所(2026年8月)4 | 上場企業・従業員300人以上の企業の経営者・役員・従業員 310人(2026年4月) | 会社公式でないAIツールを業務で使った経験:管理職46.5%、一般社員38.1%。ガイドラインを全社で整備済みの企業でも46.9% |
| サイバーセキュリティクラウド(2026年5月)5 | 業務でPCを毎日使う会社員 300人(2026年4月) | 約15%が「ルールが不明確なまま」または「認められていないツール」で利用。生成AIの利用者の約6割が業務の情報を入力した経験あり |
| スマートキャンプ(BOXIL)(2026年1月)6 | 業務で生成AIを使う担当者 1,365人(2025年12月) | 「会社は未導入だが、個人・部署の判断で無料版などを利用」14.4% |
| PagerDuty(2026年6月)7 | 年間収益5億ドル以上の企業のオフィス専門職 1,250人(日米英豪。日本は250人) | AIの利用経験者のうち、ポリシー上許可されていないと分かっていて使ったことがある人が66%(4か国合計)。公開のAIツールに業務メール等を入力したことがある人は日本で50% |
一方、総務省の令和8年版情報通信白書によると、生成AIのリスク対策として「全社的な指針・ガイドラインを整備」している日本企業は41.1%でした8。上の角川アスキー総研の調査のとおり、ガイドラインがあってもシャドーAIは起きます。ルールを作るだけでは足りない、ということです。
なぜ起きるのか
- すぐ使えて、効果がはっきりしている: 個人のアカウントなら数分で使い始められ、文章の作成や要約が目に見えて速くなります
- 会社が使えるAIを用意していない、または使いにくい: 公式のツールが無い・制限が多いと、手元の個人アカウントに流れます
- 何がだめなのかが伝わっていない: 「AIを使うな」とだけ言われても、どの使い方の何が問題かが分からないと、判断は個人に委ねられます
AI事業者ガイドラインも、社内のルールが整っていないと、企業の管理外で一般向けの生成AIが業務に使われるおそれがあると指摘しています3。
何が危ないのか
入力した情報が、会社の契約ではない条件で扱われる
生成AIサービスの多くは、個人向けと法人向けで入力データの扱いが異なります。たとえば ChatGPT の個人向けプランでは、設定を変えない限り入力内容がモデルの改善(学習)に使われることがあり、法人向けプランでは既定で学習に使わない、という違いがあります(詳しくは生成AIからの情報漏洩)。個人のアカウントで使えば、会社が契約で確保した保護は及びません。AI事業者ガイドラインは、機密情報を扱うときはエンタープライズ級のセキュリティ機能を持つ業務向けのサービスを使うよう勧めています3。
個人情報を含む内容を入力する場合は、個人情報保護法上の取り扱いにも注意が要ります。個人情報保護委員会は、本人の同意なく個人データを入力し、それが応答の出力以外に使われる場合は法違反となる可能性があるとして、提供事業者が機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう注意喚起しています10。
会社から見えない・止められない
会社が把握していないツールでは、誰が何を入力したかの記録が残りません。情報漏洩が疑われても調べようがなく、退職した社員の個人アカウントに業務の情報が残り続けることもあります。
ツール自体の安全性が確かめられていない
生成AIをうたうブラウザ拡張機能やアプリの中には、運営元がはっきりしないもの、必要以上の権限(閲覧中のページすべての読み取りなど)を求めるものもあります。会社の審査を通っていないツールでは、こうした確認が誰にもされていません。
対策:禁止に頼らず、見える化して管理する
IPAの解説書は、経営者層の対策として、許可していないAIの禁止、利用規程の整備、個人アカウントでの業務利用の制限、入力データを学習対象から外す設定の徹底などを挙げ、管理者の対策として通信ログやCASBなどによる利用状況の把握を挙げています2。IPAの人材育成プログラムの修了者がまとめた手引書(IPAの公式見解ではないと明記)は、禁止を先にすると申告されない利用が増えて実態がつかみにくくなるとして、会社公認のAIの提供・ルールの明文化と教育・技術的な検知の3つを組み合わせるよう提案しています9。
1. 使ってよいAIを用意する
シャドーAIの一番の対策は、業務で安心して使えるAIを会社が用意することです。入力データを学習に使わない法人向けプランを契約し、社員が個人アカウントを使う理由を減らします。
2. 使い方のルールを決めて伝える
「入力してよい情報・いけない情報」「使ってよいツール」「新しいツールを使いたいときの申請先」を、短いガイドラインにまとめて周知します。禁止事項だけでなく、何のためのルールかを添えると守られやすくなります。生成AIの社内ガイドラインの作り方
3. 申請と審査の窓口を作る
新しいAIツールを試したい社員が、気軽に相談・申請できる窓口を用意します。審査では、運営元、入力データの扱い(学習への利用・保存場所・保存期間)、管理機能の有無を確認します。窓口が無いと、試したい人は黙って使うしかありません。
4. 利用状況を見えるようにする
Webアクセスのログ、ブラウザ拡張機能の管理、クラウドサービスの利用状況を可視化する仕組み(CASB・SWGなど)を使うと、どのAIサービスがどれだけ使われているかを把握できます。目的は社員を罰することではなく、需要のあるツールを見つけて、正式に使える形にすることです。ただし、社外のネットワークや私物の端末での利用は、技術だけでは把握しきれません9。
5. 定期的に見直す
生成AIのサービスは入れ替わりが速く、同じサービスでも利用条件が変わります。許可したツールの一覧と利用条件は、半年に一度などの頻度で見直します。
チェックリスト
- 業務で使ってよい生成AIを、会社として用意しているか
- 入力してよい情報・いけない情報を、具体例つきで社員に伝えているか
- 新しいAIツールを使いたいときの申請先が決まっているか
- 社内で使われているAIサービスを、ログなどで把握できているか
- 許可したツールの利用条件(学習への利用など)を、定期的に確認しているか
実際に起きた事例
事例集を見る-
RIZAP社員が個人利用の生成AIに特定保健指導の対象者データ(要配慮個人情報を含む)をアップロード
健康保険組合や自治体から特定保健指導を受託していたRIZAPで、社員がデータ集計作業中に、会社が業務利用を許可していない個人利用の外部生成AIサービスへ対象者データをアップロードした。データには氏名や保険証記号番号のほか、疾患情報などの要配慮個人情報が含まれていた。委託元の自治体の発表では対象は計19,996件で、複数の健保組合・共済組合・自治体がそれぞれ自分たちの対象者数を公表した。サービス名(ChatGPT)は委託元の皆野町の発表によるもので、RIZAPの発表は「外部の生成AIサービス」と記載している。
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豪ニューサウスウェールズ州復興庁の元委託業者が、洪水被災者向け事業の個人情報をChatGPTにアップロード
NSW州復興庁は、北部河川地域の住宅支援事業(Resilient Homes Program)の元委託業者が、2025年3月12〜15日に、庁が認めていないAIプラットフォームであるChatGPTへ、申請者の個人情報を含むExcelファイル(10列、1万2,000行超)をアップロードしたと公表した。最大3,000人が影響を受けた可能性がある。
この記事の根拠にした資料
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]」
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)別添」
- 株式会社角川アスキー総合研究所「企業における生成AI導入の投資・統制・成果実態調査(2026年4月調査)」
- 株式会社サイバーセキュリティクラウド「業務での生成AI利用に関する調査(2026年4月調査・実査は楽天インサイト)」
- スマートキャンプ株式会社(BOXIL)「生成AIの利用実態調査(2025年12月調査)」
- PagerDuty株式会社(調査委託先 Wakefield Research)「PagerDuty シャドーAI調査(2026年4月調査)」
- 総務省「令和8年版 情報通信白書 第Ⅰ部第2章第1節」
- IPA 産業サイバーセキュリティセンター 中核人材育成プログラム 9期生「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書(第1版。IPAの公式見解ではなく著者の見解と明記)」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」