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AIを使った詐欺から会社を守る:ディープフェイク・音声のなりすまし・巧妙化するフィッシング

経営者の顔や声を生成AIでまねたビデオ会議・電話での送金指示や、自然な日本語で書かれたフィッシングなど、AIで巧妙になった詐欺の手口と公表された事例、会社として整えておく確認の手順を解説します。

公開 2026年10月20日 更新 2026年10月20日 執筆 AIセキュリティノート編集部(株式会社shigegegege)

何が変わったのか

なりすましによる送金詐欺(ビジネスメール詐欺)は、生成AIが広まる前からある手口です。変わったのは、なりすましの材料を作る手間が大きく下がったことです。

  • 映像: 公開されている動画や写真から、本人に似た顔で話す映像を作れる
  • 音声: 本人の声に似せて任意の文章を読み上げさせる「音声クローン」が使われている。AI事業者ガイドラインは、AIの合成音声で家族の声を装い身代金を要求した海外の事例を挙げています7
  • 文章: 警察庁は、AI技術の発達で文章が自然になり、見抜きにくいフィッシングが増えているとしています4

IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、10位のビジネスメール詐欺の解説で、なりすましにAIによるディープフェイク等の利用も確認されていると書かれています1。「日本語がおかしいメールは怪しい」「声を聞けば本人だと分かる」という、これまでの見分け方が通じにくくなっています。

公表された事例

海外:役員を装ったビデオ会議で約2億香港ドルを送金

香港政府の答弁によると、2024年1月末、英国本社の最高財務責任者(CFO)を装ったメールをきっかけにグループのビデオ会議に招かれた社員が、5つの口座へ合計約2億香港ドルを送金しました。香港警察は、この会議は公開されている動画と音声をもとに作られた事前録画で、詐欺師と被害者の間で双方向のやり取りはなかったとみています。同年5月にも、CFOを装ったメッセージから約30分のビデオ会議に誘い込み、約400万香港ドルの送金を指示した事案がありました2。

国内:顔をAIで作った偽の警察官、ディープフェイクのなりすまし広告

警察庁は、特殊詐欺でビデオ通話に出る偽の警察官の顔をAIで生成していた事案(2025年8月逮捕)を報告しています4。また、ディープフェイクで著名人の顔や声を無断で使ったなりすまし広告をきっかけに投資詐欺の被害が広がっているとして、2026年8月には警察庁など7府省庁が、主要なSNS・広告事業者に広告主の本人確認などの対策強化を要請しました5。

国内:社長・役員を装った依頼メール

IPAの解説書は、2025年12月以降、社長や役員を装って「LINEグループの作成」を依頼するメールが相次いでいることを取り上げています1。生成AIの使用が確認された事例ではありませんが、経営者を名乗って社員を動かそうとする手口が国内でも続いていることを示しています。

会社で狙われやすい場面

  • 経営者・上司を名乗る送金の指示: 「極秘の案件なので、今日中にこの口座へ」といった急ぎの依頼
  • 取引先を名乗る振込先の変更: 請求書の振込先口座が変わったという連絡
  • 社内の担当者を名乗るパスワードや認証コードの要求: ヘルプデスクや情報システム部門を装う
  • 採用・取引の相手のなりすまし: オンライン面接や商談の相手が、別人の顔や声を使っている

対策:見破るより、手順で止める

偽の映像や音声を見破る技術や製品もありますが、作る側の技術も進みます。IPAとAIセーフティ・インスティテュートの資料も「外見では詐欺師を見破れないと心得る」ことを勧めています6。お金や情報が動く場面に、だまされても止まる手順を入れておきます。

1. 送金・口座変更は、事前に決めた別の経路で本人に確かめる

メール、チャット、ビデオ会議で受けた送金の指示や振込先の変更は、会社が把握している電話番号など、相手から伝えられたのではない連絡先にかけ直して確認します13。届いたメールに書かれた電話番号は使いません。FBIは、本人確認のための合言葉を決めておくことも勧めています3。

2. 一人で完結させない

支払いの業務は複数人で審査・承認する仕組みにします1。「急ぎ」「極秘」「ほかの人には言わないで」は、詐欺の典型的な言い回しです。そう言われたときこそ、手順どおりに確認してよいことを社内で明確にしておきます。

3. 経営者の声や顔は公開されている前提で考える

講演、インタビュー、SNSの動画で経営者の声や顔が公開されていれば、それを材料にできます。香港の事案でも、公開されている動画と音声が使われたとみられています2。経営者自身が「自分から電話やビデオ会議で急な送金を頼むことはない」と社内に伝えておくのも有効です。

4. ビデオ会議での確かめ方を決めておく

香港警察は、相手に頭を上下左右に動かしてもらう、会話の内容で本人かどうかを確かめる、送金の依頼は電話で確認する、知らない相手からのビデオ通話には出ない、といった方法を勧めています2。ただし、これらは見破るための補助です。最終的な確認は1の手順で行います。

5. メールのなりすましを技術で減らす

IPAは、送信ドメイン認証(DMARC・SPF・DKIM)や、FIDO2などの強い多要素認証を対策に挙げています1。受け取る側でも、外部から届いたメールであることを表示する設定は、社内の人を装ったメールに気づくきっかけになります。

6. 定期的に訓練する

なりすましの連絡を受けたときの手順を、年に一度などの頻度で確認・訓練します。手順は、知っているだけでなく、急かされた場面で実際に使えることが大切です。

チェックリスト

  • 送金・振込先変更の依頼を、事前に決めた別の連絡経路で確認する手順があるか
  • 支払いに、二人以上の審査・承認を必須にしているか
  • 「急ぎ・極秘」の依頼でも手順を省かなくてよいと、社内で明言しているか
  • 自社ドメインに送信ドメイン認証(SPF・DKIM・DMARC)を設定しているか
  • なりすましを受けたときの報告先が決まっているか
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この記事の根拠にした資料

  1. 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]」(2026年3月12日)
  2. 香港特別行政区政府「LCQ9: Combating frauds involving deepfake(立法会での保安局長の書面答弁)」(2024年6月26日)
  3. 米国連邦捜査局(FBI)IC3「Criminals Use Generative Artificial Intelligence to Facilitate Financial Fraud」(2024年12月3日)
  4. 警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年9月)
  5. 警察庁ほか7府省庁「SNS等におけるなりすまし詐欺広告に関する対策強化のための7府省庁合同要請の実施」(2026年8月7日)
  6. IPA・AIセーフティ・インスティテュート「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」(2026年4月2日)
  7. 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)別添」(2026年3月31日)